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お粥

掲載日: 記事No.6

今回は、東本願寺出版部、仏典童話Ⅱに収められているお話し「お粥」を紹介させていただきます。

バーラーナシーに二人の兄弟が住んでいました。
父の遺産で二人は豊かに暮らしていました。
「一本の細いひもでは象をつなぐことはできないが、二本合わせてれば大丈夫。財産は二つに分けず、二人で力を合わせて守り増やしなさい」 父の遺言をまもれたのは一年だけでした。
正装してお城へ出かけるのも、大切なお客さまの接待も兄ばかり、弟はそれがおもしろくありません。「それなら仕事を交代しよう」という兄の言葉も聞かず、 むりやり財産の半分を持って弟は出てゆきました。初めて手にした大金を、弟はすぐに使い果たしてしまいました。半分になった遺産をもとに戻そうと、せっせ と働く兄のところへ弟は無心にやってきました。
「これはもともと父さんのものだ。大切に使いなさい」叱られもせず分けてもらったものを、弟は再び瞬く間に使い尽くし、今度は借金までこしらえてしまいました。
途方にくれる弟を兄は見すごすことができません。「これで最後だよ。父さんの苦労を無にしないでね」 さすがの兄も固く念を押しました。
そこへ突然、洪水がおきて兄はすべてを失いました。弟は急に買い手の増えた木材を商って、一挙に大儲けをしました。援助を求めてやってきた兄に、弟は冷たく言いました。
「父さんの苦労を無にしたのはどっちだい」兄はきっぱり諦めて、これまでの暮らしをやめ、森に住む徳の高い仙人の弟子になりました。根が努力家の兄は熱心に修行して、数年の後に高弟の一人になりました。
ある日、町はずれを托鉢していると、今にも崩れそうな小さな家がありました。空家であろうと通りすぎようとしたとき、中から溜息が洩れてきました。「あ あ、こういう貧しい人にこそ施しの徳を積む機会を作ってあげよう」兄は戸口に立ちました。応対に出た家の主を見て、兄は声をのみました。肩を怒らせて自分 を追い返した豪商の面影は、かけらもありませんでしたが、紛れもない弟の見る影もなく落ちぶれた姿でした。
弟も一瞬、目を疑いましたが、もともと優しい兄の顔に威厳と気品が備わって、それが弟の心をつき動かしました。二人は言葉もなく見つめあいました。
壁土の落ちた穴から陽がさして、からんとした家の中が見わたせました。売れる限り売り尽くした弟の暮らしを見て、兄は胸を痛めました。弟は兄の空の鉢に気づきました。
「兄さん、お粥があるんです。少しですが食べてください」こわれかけたお鍋からていねいに移されたそれは、ほとんど重湯に近いものでした。これがこの家の 唯一の食べ物でとすぐにわかりました。兄はそのお粥を高くおしいただいて言いました。「君の心は十分にいただいたよ。さあ、これは君が食べなさい」「い や、これはどうしても兄さんに食べてほしいんです。僕たちが小さいとき、戸口に立つ人があると父さんは必ず食べ物を捧げていましたね。あのころうちはまだ 貧しかった。それを今、兄さんを見て、やっと思い出したんです」それぞれの憶いを瞳にこめて、二人はさわやかに別れました。

いかがでしたか、このお話しは「自己中心主義」の現代の日本人に警鐘を鳴らしているように思われます。今一度、自分自身の生き方をふりかえって見たいものです。

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